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LECTURE

特集講義

 栄養学の本を紐解くと必ず三大栄養素や五大栄養素について詳細に記載されています。三大栄養素は蛋白質・脂肪・炭水化物であり五大栄養素になるとビタミン・ミネラルが追加されます。そもそも人間の身体を形成しているのは約26%の有機物つまり蛋白質・脂質・炭水化物・ビタミンで、元素で表記すればH;水素/O;酸素/C;炭素/N;窒素です。その他約4%のミネラルCa/Mg/P/Na/K/Fe/Zn等と70%の水分です。体内60兆個の細胞とよく言われますが、細胞自身がこれらの成分で形成されている以上、五大栄養素のみについて学習しても偏った知識になってしまいます。新鮮な野菜や果物はみずみずしいのですが時間の経過とともに萎びた状態になることは皆さんも周知の事実だと思います。また、遭難者が空腹に耐えながら水分補給だけで長期間生存可能であったこともよく知られています。我々人類も地球上で生命を得た生物であり、しいて言えば海から生まれた生命体と言っても過言ではありません。奇しくも、地球においても海が占める割合は70%になっていて人間の水の割合と同じです。この章では、一般的なスポーツ栄養学の基礎を学び、一番大切な水分補給にも触れた後にサプリメントの必要性についても学んでいきたいと思います。

1. スポーツと栄養

日本選手のスタミナ不足はカロリー摂取量の不足にままならないと、オリンピックが開催されるたびに言われてきました。アスリートと呼ばれる人達は50kcal/kg/dayのカロリー摂取が必要とさえ言われています。通常の食事摂取回数でこれをまかなうにはかなり無理があり食事回数を1回増やす方が良いという意見もあります。実際には三大栄養素とビタミン・ミネラルをバランスよく摂るように指導されており、運動量に見合ったエネルギー摂取量の増加と種目特性に適応した栄養素の重点摂取を配慮した栄養補給を行うようにと記されています。しかしただ闇雲に栄養を取れば良いわけではなく、タイミングが重要である事を学習して下さい。

a)スタミナと糖質(炭水化物)補給

スポーツに必要な体力の3要素はパワー・スピード・スタミナで構成されています。各種スポーツのプレーでこれを発揮する為にはエネルギー源を分解してATP(アデノシン三リン酸)を産生しなければなりません。このATP産生に関わるのがエネルギー代謝であり、基本的には糖質を原料として乳酸を生成しながらATPを合成していく解糖系(無酸素エネルギー代謝)と脂肪酸を主たる原料として炭酸ガスと水を生成しながらATPを産生していくβ-酸化・TCA回路・電子伝達系(有酸素エネルギー代謝)の二つからなります。もちろん糖質も乳酸に至る前駆体のピルビン酸からTCA回路に入り有酸素エネルギー系でもATPを産生します。

糖質と脂肪はスポーツにおける2大エネルギー源といえますが、それぞれには食事由来と体内貯蔵由来の2つの起源があります。まず糖質について考えます。表2のように糖質は単糖類・二糖類・多糖類に分類されますが、体内で吸収される時は必ず単糖類の形でしか吸収されません。そして血中ではグルコース(ブドウ糖)の形で存在し、体内に貯蔵する場合にはグリコーゲン(多糖類)の形で存在します。筋肉と肝臓がその貯蔵場所です。推定値ではありますが、体重60kgの男子水泳選手で肝臓に60g、筋肉に400gのグリコーゲンを貯蔵していると言われています。また血中グルコースは脳の最重要エネルギー源であり、血中グルコース濃度が低下すると集中力散漫、めまいなどの中枢疲労の症状が現れ、著しく運動パフォーマンスを低下させます。食事摂取後2時間くらいまでは血中グルコースの大部分は食事の炭水化物に由来し、主たるエネルギー源になります。しかし運動が長く続いて食後3~4時間経過すると肝臓に貯蔵してあるグリコーゲンを動員してエネルギー源とします。筋肉グリコーゲンはいずれの時点でもスポーツのエネルギー源として利用可能ですが、血中グルコースを供給することは出来ません。局所の筋肉グリコーゲンが枯渇するとたとえ隣の筋肉にグリコーゲンが残っていても使用できないために、運動停止状態になってしまいます。 

一方脂肪は食後2~4時間には血中脂肪酸は食事由来のカイロミクロンの状態で存在し比較的簡単に脂肪酸に分解されてエネルギー源になりえます。しかし体内の貯蔵脂肪がエネルギー源として利用されるのは食後かなりの時間が経過してからです(糖質が枯渇してからと考えて頂けば良いと思います)。ダイエット目的の有酸素運動は血中グルコースが低下した段階が効率の良い由縁です。
日々の激しいトレーニングや高いパワーを長時間持続させる必要のある種目では、特に体内グリコーゲンの消費が激しく、試合前は勿論のことトレーニング前にも適切な糖質補給を行い、体内でのグリコーゲン含量や血糖値の高いレベルを維持することが大切です。

試合前までに食事と運動を組み合わせて体内グリコーゲン含量を高めておく方法をグリコーゲン・ローディング(炭水化物ローディング)と言います。グリコーゲン含量の増加は運動時間の延長をもたらし、疲労開始時間を遅延させることが可能なため持久系種目においては有効と考えられています。グリコーゲン・ローディングの実際はマラソン選手のように競技日1週間前から2~3日間炭水化物を極度に制限した高脂肪・高蛋白質食をとり、体内からグリコーゲンを消失させるように激しいトレーニングをします。その後競技日までの2~3日間高炭水化物・低脂肪食に切り替え競技日のレース直前まで炭水化物を中心に摂取します。一度体内からグリコーゲンを減少させることによってグリコーゲン合成酵素の活性を上昇する事に意義があります。現在では実施日数を少なくしたり炭水化物の制限を変えたりしながら多くのマラソン選手が採用しています。またメジャーリーグの三振奪取王ノーラン・ライアンが中4日前後の登板間隔で休息1日目と3日目にウェートトレーニングを行った後の休養4日目をノンミート・プロテイン・デーとしてグリコーゲン・ローディングを実践していたことは有名です。マラソン選手やプロ野球の投手なら良いのですが、連日にわたって競技をしたり1日に数回の競技を行う場合にはとても採用できません。その場合急速グリコーゲン・ローディング法が重要になってきます。それは、炭水化物摂取時にクエン酸を摂取することです。クエン酸が解糖系のホスホフルクトキナーゼ活性を阻害することを利用したものです。図1に示したとおりクエン酸を炭水化物と同時に摂取すると明らかに肝臓・筋肉のグリコーゲン貯蔵の増加が認められます。スポーツ選手の食事にはオレンジジュースやグレープフルーツ等のクエン酸が豊富な柑橘類を食べなさいといわれるゆえんです。グリコーゲン・ローディングを軽視すると、合宿中など激しいトレーニングの後夕食や睡眠を十分にとり朝食を十分摂取しても血糖値があまり上昇しないことが実際に起こります。夕食だけではグリコーゲンの補充が十分でなかったため朝食で摂取した糖質までグリコーゲン合成に向けられてしまったことになります。

糖質にも血糖値を素早く上昇させるものとそうでないものとがあります。グリセミック指数(Glycemic Index:以下GI)で表されますが(表3)これはグルコースを投与した時の血糖上昇を100としての比較です。GIが高い糖質は血糖値を素早く高めることによりインスリンの分泌が亢進し、筋肉内へのグルコースの取り込みが急激に進むため、血糖値を低下させてしまいます。したがって運動直前には絶対に避けたい糖質です。逆に運動直後のグリコーゲン回復には非常に重要です。運動前には低GI、運動直後には高GIと覚えておいて下さい。運動中の最適な糖質補給に関しては議論の多いところですが、単糖類が数個繋がった程度のデキストリンと呼ばれるオリゴ糖類が最適との意見が主流となってきました。テレビCM「10秒チャージ」の製品は有名ですが、グルコースのようなインスリンリバウンドの心配が無く、デンプンよりも速やかに吸収されグルコースに変化するからです。

b.筋肉作りと蛋白質

筋肉作りと蛋白質 参照

c.脂肪は決して悪者ではない

 スポーツのスタミナ源にはグリコーゲンと脂肪があることはすでに述べましたが、脂肪は体内に過剰蓄積されてしまう事が多く、敬遠されがちです。しかしながら糖質やたんぱく質からは1gあたり4kcalのエネルギーを得られるのに対して脂肪は9kcalのエネルギーを得られる優位性があります。エネルギーを大量に消費する日常のハードなトレーニングにおいては決して軽視すべきではありません。先ほど述べた通り体内に貯蔵されているグリコーゲンはごく僅かで体重の1%未満とされ、貯蔵脂肪の量とは比較になりません。

食べ物として摂取した脂肪は小腸で吸収されてカイロミクロン脂肪となりリンパ管を経由してから血管内に現れます。そして主要臓器の毛細血管の内壁にあるリポ蛋白リパーゼによって脂肪酸とグリセリンに分解され、その脂肪酸が心臓や筋肉に取り込まれてエネルギーとして利用されます。脂肪と一緒に摂取した炭水化物がインスリンを活性化することによって、リポ蛋白リパーゼは活性が抑制されます。インスリン活性のピークは食後3時間とされますが、脂肪の吸収は比較的緩除でカイロミクロン脂肪が血中のピークを示すのは食後4時間程度のため、インスリンによる脂肪のエネルギー化の抑制作用は問題にならないとされています。

試合当日の朝食は競技開始3時間前に終了すべきであるとされています。また日ごろのトレーニングも実際には食後3時間が経過してから行う事が多いと思います。したがって食事で摂った脂肪はスポーツ時のスタミナ源として十分利用可能な生理的条件が整っていることになります。

さてエネルギーを産生することはATPを産生することに他ならないことは先ほども述べましたが、ATPを産生するTCA回路も電子伝達系も酵素を含め全て細胞内のミトコンドリアに存在します。ミトコンドリアは最小のモーターと考えられており、赤血球以外のあらゆる細胞に存在し、大半の細胞では1つの細胞に複数存在します。心筋や筋肉には1つの細胞に大量に存在し、心筋スペースの40%はミトコンドリアと言われています。脂肪酸をエネルギー源として使用するためには細胞内に取り込まれた脂肪酸は活性化され、脂肪酸-CoAとなります。しかし脂肪酸-CoAは分子量が大きすぎてミトコンドリアの中に入れません。そこで活躍するのがカルニチンです。カルニチンは小さな分子であり、脂肪酸-カルニチンは容易にミトコンドリア内に取り込まれます。カルニチンは肝臓でリジンとメチオニンから作られますが、スポーツやダイエット目的で有効活用するためには食事やサプリメントで補う必要があると思います。

食事由来の脂肪はエネルギー源として心臓や筋肉で利用されるか脂肪組織に取り込まれて貯蔵脂肪になるかは、摂取のタイミングが大切です。つまり夕食で摂取した脂肪は貯蔵脂肪にしかなり得ず、朝食と昼食で摂取してこそ有効活用可能なのです。

d.ビタミン・ミネラルの仕事

体内での代謝活動においてビタミンやミネラルはエンジンオイルのように働きます。蛋白合成にも非常に重要な働きがあります。具体的な活躍の場はその都度お話し主要なものの一般的な働きを列挙します。

代表的ミネラル

カルシウム:

骨や歯の形成に必要(厚生労働省)体内貯蔵量最大のミネラル。カルシウムとリンは密接な関係がある。丈夫な骨を作るにはカルシウムとマグネシウムとコラーゲンが必要。
代表的欠乏症は、くる病・骨軟化症、骨粗鬆症
多く含む食品;ミルク・乳製品・大豆・鰯・鮭・ピーナッツ・小魚

サプリメントとしては800〜1500mg 必ずマグネシウムが1:2で配合された物

亜鉛:

200種類以上の酵素の活性中心元素として重要。微量元素欠乏症の中で最も発生頻度が高い。細胞分裂、核酸代謝に関与しており欠乏は様々な病態を招く。
代表的欠乏症状は、生殖力低下・発育遅延・味覚障害・嗅覚障害・免疫力低下・皮膚炎・鬱状態など
多く含む食品;肉・レバー・牡蠣・魚介類・小麦胚芽・ビール酵母・卵

サプリメントとしての摂取量は15〜60mg程度

マグネシウム:

カルシウム・ビタミンC・リン・ナトリウム・カリウム等の代謝に関与。丈夫な骨を作るためにはカルシウムとコラーゲンが重要。神経や筋肉の機能にも関与。糖代謝にも関与。
代表的欠乏症状は手足の震え神経過敏等
多く含む食品は穀類・豆類・イチジク・ナッツ類・バナナ

サプリメントとしての摂取量は400〜800mg必ずカルシウムと1:2で配合された物

銅:

鉄の吸収効率を高めたり、ヘモグロビンに転換する際に必要。
チロシンが毛髪や皮膚の着色因子として働く際関与。
代表的欠乏症状は貧血・浮腫・骨格異常・動脈異常など多く含む食品は豆類、小麦粉・プルーン・ホルモン・エビ・魚介類

サプリメントとしての摂取量2mg程度

マンガン:

多くの酵素の活性化に関与。骨形成に関与。甲状腺ホルモンの生成に関与。生殖機能、中枢神経系に関与。
代表的欠乏症状は成長遅延、骨異常、生殖機能異常、中枢神経異常などサプリメントとしての摂取量は2〜3mg程度

モリブデン:

糖質・脂質の代謝に関与。鉄代謝に関与。キサンチン・ヒポキサンチン代謝に関与。
代表的欠乏症状は成長遅延。
多く含む食品は濃緑色葉野菜、穀物、さや豆

サプリメントとしての摂取量は75〜250μg

セレン:

ビタミンEと同様抗それ自身が酸化物質であるがグルタチオンペプチターゼ活性に関与してより抗酸化作用は強力に。酸化による老化や組織の硬化を予防する。
多く含む食品;魚介類・腎臓・レバー・小麦胚芽・タマネギ・トマト・ブロッコリー

サプリメントとしての摂取量は30〜200μg

鉄:

本文貧血の項参照

代表的ビタミン

ビタミンA:

脂溶性;夜間視力維持・皮膚粘膜の健康維持(厚生労働省)
夜盲症・眼球乾燥症等の改善の他免疫機能にも関係・成長促進・疲労回復にも
多く含む食品;魚の肝油・レバー・人参・緑黄色野菜・卵・ミルク・乳製品
βカロチンでの摂取がベター(過剰症を引き起こさない)

ビタミンB1:

水溶性;炭水化物の分解・皮膚粘膜の健康維持(厚生労働省)
疲れ眼・肩こり・腰痛・便秘・手足のしびれ等の改善の他神経系との関与大・成長促進にも関与
多く含む食品;ビール酵母・米糠・ピーナッツ・麦・豚肉・野菜・ミルク
B2・B6と同量及びB12の同時摂取が理想

ビタミンB2:

水溶性;皮膚粘膜の健康維持(厚生労働省)
脂肪代謝と関係大・成長と生殖機能に関与。セレンと共に過酸化脂質分解に関与。
多く含む食品;ミルク・レバー・腎臓・酵母・緑色野菜・チーズ・卵
活性酸素消去時にグルタチオンペルオキシダーゼ・グルタチオン還元酵素の作用に必須
B1・B6と同量及びB12の同時摂取が理想

ビタミンB6:

水溶性:タンパク質の分解・皮膚粘膜の健康維持(厚生労働省)
アミノ酸合成・分解に深く関与。タンパク質を多く摂取したときには多く摂取する必要あり。ニキビ・口内炎・口角炎・手足のしびれにも関与
多く含む食品;酵母・小麦・レバー・腎臓・大豆
脳の神経間伝達物質であるGABAの合成に関与
B1・B2と同量及びB12の同時摂取が理想

ビタミンB12:

水溶性:赤血球の形成(厚生労働省)
中心にコバルトを含む赤いビタミン。赤血球の再生・形成に関与。末梢神経系の健康を維持。精神安定にも関与。
多く含む食品;レバー・牛肉・豚肉・卵・ミルク・チーズ
葉酸との併用が望ましい

ビタミンC:

水溶性;皮膚粘膜の健康維持・抗酸化作用(厚生労働省)
人間・サル・モルモット以外の動物は自分で作る事ができる。いわゆる抗酸化物質の代表。コラーゲン形成、鉄吸収に重要な働き。喫煙者・中高年者は多量が必要
多く含む食品;柑橘類・ベリー類・緑色葉野菜・トマト・ジャガイモ

ビタミンD:

脂溶性;腸管でのカルシウム吸収促進・骨の形成を助ける(厚生労働省)
太陽光線特に紫外線が皮膚の脂肪に作用して体内でも作られる。カルシウムやリンの代謝に密接に関係し丈夫な骨や歯を作る。ビタミンAの吸収にも関与。
多く含む食品;魚の肝油・いわし・にしん・鮭・鮪・ミルク・乳製品

ビタミンE:

脂溶性;抗酸化作用により体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける(厚生労働省)
α-トコフェロールが最も強い抗酸化力を持つ。脂質以外にもビタミンA、C及びセレニウム含硫アミノ酸(システイン、メチオニン)の酸化も防ぐ。
多く含む食品;小麦胚芽・大豆・植物油・ナッツ・芽キャベツ・葉野菜・小麦粉・卵