LECTURE

特集講義

筋力を増強させる為には筋肉づくりのメカニズムを知らなければなりません。

1. レジスタンストレーニングに代表されるトレーニングは筋肉繊維に微細な損傷を与え、その修復を過剰に行わせる事により筋肉繊維を太くしていくというメカニズムです。筋肉に与えるダメージは各個人によって、トレーニングの負荷や回数によって異なってきますが、大切なことはトレーニング後のクールダウンと休息、栄養補給が大きな意味を持つことを忘れてはいけません。技術系のスポーツ選手が、ウェートトレーニング後にジョギングや技術トレーニングをするようでは全く効果は期待できません。スポーツにおける上達法は練習・食事・休息が三位一体なのです。さて蛋白質*は人間の身体を構成している20種類のアミノ酸*を知ることから始まります。スポーツ選手の食事には必ず必須アミノ酸が十分に含まれていなければなりません。
アミノ酸スコア
 食品中に含まれる各必須アミノ酸含量をアミノ酸評点パタンの当該アミノ酸量で除して%表示しその最低値で示す。つまり必須アミノ酸のうち一番含有率の少ないアミノ酸の%が決め手になる。この最低値を示すアミノ酸を(第一制限アミノ酸)と呼ぶ。蛋白質の利用率は必要量に対して最も少ない割合で存在する必須アミノ酸の量によって制限を受けるという意味。この時アミノ酸評点パタンの参考になるのが良質の蛋白質であると判断されている鶏卵・牛乳のアミノ酸組成。いわゆる動物性蛋白質のほとんどがアミノ酸スコアは100。

2. 蛋白質は、アミノ酸として吸収された後、体内で筋肉などの蛋白質に合成する必要があります。筋肉以外の部位でも蛋白質は全身で分解と合成を繰り返し行っています。したがって必須アミノ酸は毎日摂取し、合成を速やかに行える準備が必要です。そして蛋白合成の指令を出すのが成長ホルモンの仕事です。(図2)

 成長ホルモンは子供の身長を伸ばすイメージがありますが、成人でも骨を含めた蛋白合成を活発にすることが重要な仕事です。成長ホルモンは血中アミノ酸の筋肉への取り込みを促進し、インスリンとの共同作業で筋肉による蛋白合成を活発化します。筋肉作りに重要なアミノ酸は分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid);以下BCAAと呼ばれるバリン・ロイシン・イソロイシンです。BCAAは筋肉内でエネルギーとして代謝され、また傷ついた筋線維を修復する為に最重要なアミノ酸です。牛肉やマグロ・鶏卵・牛乳等に豊富に含まれています。理想的な筋肉修復の為には運動後30分以内がgolden timeと言われています。また運動中にBCAAが不足すると脳疲労物質であるセロトニンを増加させ中枢性疲労を起こすという報告もあります。スポーツ選手は運動量が多く蛋白質摂取量が少ないと体蛋白質量が減少し筋肉量の低下、貧血、免疫抵抗力の脆弱化を起こしてきます。持久系運動時には1.2~1.4g/kg/day、筋肉トレーニング時には1.7~1.8g/kg/dayの蛋白質摂取が望ましいと考えられています。プロテインを愛用する選手に対して「必要量以上の蛋白質は尿となって排泄されるので問題ない」とメーカーは述べていますが、摂取時期であるトレーニング終了直後には脱水状態が存在し20gものプロテインを負荷することはカルシウムの尿中排泄量を増大したり、腎臓障害を起こす危険性もあります。実際にジュニア選手でコーチにプロテインを強要され腎不全になった選手も少なからずいますので、注意が必要です。したがってジュニア選手にはプロテインを禁止した方が無難です。

3. 成長ホルモンが蛋白合成を活発化することは先ほど述べましたが、筋肉作りのためには成長ホルモンの分泌をうまく利用する事がキーポイントになります。ウェートトレーニングには成長ホルモンの分泌を促進する作用があり、重量負荷が大きいほど強くなります。血中レベルでみるとトレーニング終了後1~2時間でピークをむかえます。つまりこの時間帯に間に合うようにアミノ酸補給を終え、身体を休めることにより効率的な筋肉作りが望めます。もう一つ大切なことは睡眠です。運動中は蛋白合成を抑制するグルココルチコイド*の分泌が活発になり蛋白合成よりも分解が主となります。休息特に睡眠中はグルココルチコイドの分泌が低下し蛋白合成優位の代謝になります。さらにノンレム睡眠と呼ばれる深い眠りが始まると成長ホルモンの分泌が活発になり、筋肉も含めた蛋白合成が活発になります。ウェートトレーニングと睡眠の筋肉作り促進作用をさらに有効にするのが昼寝です。大相撲界のように午前中の稽古のあとウェートトレーニングを15~20分間行った後入浴し、ちゃんこを食べ昼寝をします。これが実は非常に理にかなった筋肉作りの方法なのです。さらに熱心に筋肉作りをするならば夕食前にもウェートトレーニングを行ってから夕食をとれば1日に2回筋肉作りの刺激を与えることになります。寝る子は育つと言われるように、午前・午後二回のトレーニングを行える日には昼食後の昼寝がとても有意義であることを知っておいて下さい。

グルココルチコイド

 ウェートトレーニングを行うと副腎からグルココルチコイドであるコルチゾールの分泌が促進される。コルチゾールはカタボリック・ストレス・ホルモンと呼ばれ運動中に筋肉を破壊してしまう。(蛋白異化作用)そして運動終了後に摂取したプロテインやアミノ酸の筋肉内への取り込みを抑制する。そのためアンチ・カタボリックサプリメントとして蛋白同化ホルモンであるアナボリック・ステロイドを用いるアスリートが存在した。勿論これは禁止薬物。ワークアウトの間と直後のみコルチゾールの分泌を抑制できるサプリメントとしてホスファチジルセリンが米国ボディービルダーに愛用されるようになったが、これは禁止薬物ではない。元来脳の活性化を高めるために摂取されていたサプリメントで、受験生にも愛用者が多くいる。