LECTURE

特集講義

CoQ10の働き

 欧米ではスタンダードに認知され多くの愛用者がリピーターであるCoQ10が日本ではメーカーやマスコミの誤った宣伝で一向に消費量が増加せず、大量に買占めたメーカーは化粧品をメインに売ろうとしている今日、正しい情報を提供するのが小生の使命であると自負し此処に掲載する事としました。
アメリカでは多くの医師が心不全やパーキンソン病等でも使用し、オリンピック選手で愛用していない選手は皆無と言われるほど一般化したCoQ10が何故日本で脚光を浴びないのか愛用者の一人としても不思議でなりません。
そもそもCoQ10は1978年英国のミッチェル博士が「エネルギー生産の仕組みとCoQ10の役割を明らかにする研究」でノーベル賞を受賞した由緒正しき物質です。1998年よりコエンザイムQ10国際会議も定期的に開催され、日本でも2002年当時東京大学助教授であった山本順寛氏を理事長とした日本コエンザイム協会が設立され翌年より定期的に総会が行われています。同理事長監修で発刊されたコエンザイムQ10という本の内容を中心にお話を進めて行きたいと思います。

CoQ10とは?

図1図1 ミトコンドリア内でATPを産生する時に必須の補酵素で、体内合成能は20歳をピークに減少し25%以上低下すると生命に危険を及ぼし、心筋内での不足は心不全を発症することが知られています。(図1)の6つの働きに沿って話を進めていきます。


1)エネルギー産生の源

図2図2 我々人間のエネルギー源は糖質が中心であることに異論は無いところですが、細胞レベルで考えるとATPこそがエネルギー源です。糖質をエネルギー化する時まず、解糖系で2個のATPを得た後ミトコンドリア内に入り、あの有名なクエン酸回路(TCA回路)でさらに2個ATPを得ます。此処で得られた水素イオンが電子伝達系(別名水素イオンダム)と呼ばれる場所で実に34個のATPを得ることになります。この反応の初期の段階でCoQ10が必須になります。もしCoQ10が不足すれば34個のATPを放棄することになりかねないのです。(図2)をご参照下さい。このようにミトコンドリアは細胞内で大半のATPを産生する最小のモーターと呼ばれています。この際大量の酸素を消費します。赤血球以外の全ての細胞に存在し大半の細胞では複数存在、心筋や筋肉では1細胞に大量に存在し、特に心筋ではスペースの40%がミトコンドリアで占められています。ATP産生がなぜそんなに重要かというと我々人間が個体として80年寿命があるとします。ところが80年間生きている細胞は存在しません。つまり常に細胞分裂を繰り返し新しい細胞で成長し補うことによって80年を過ごすことになります。ATPの不足は細胞の新陳代謝を停滞させることになります。アンチエージングにも密接に関与しているのです。

2)心臓病薬としての実績

 1974年日本において鬱血性心不全の治療薬として承認され本格的工業生産が開始されました。現在でも世界中のCoQ10は日本で生産されています。心不全関係の論文は多数ありますが米国のF.Rosenfeldt博士が2001年米国心臓病学会で発表した論文をご紹介します。122人の心臓バイパス患者を2つのグループに分け一方にだけ1日300mgのCoQ10を術前1週間以上摂取させて手術し比較検討しています。手術中に採取した心筋細胞内のCoQ10は17.2±1.0から43.4±3.0μg/g wet tissue と2.5倍に増加しており術後ICU滞在時間は40.8±2.4が33.6±2.4時間に短縮、入院日数も8.7±2.1に対し6.8±0.7日と著明に短縮しています。他にも心臓病患者の75%でCoQ10が不足していた事、心臓病患者に投与すれば75%で症状が改善した事などが発表されています。実際米国では重症心不全患者に1日1000mg以上投与して治療にあたり改善した報告例も多数あります。

3)優れた抗酸化力

 最近活性酸素や抗酸化物質と言う言葉を良く耳にしますが、十分に理解していらっしゃらない方が多いのではないでしょうか。ここで少し整理してみます。
そもそも体内でエネルギーを産生すること自体が酸化なのです。化学的には電子を奪うことを酸化と呼びます。酸素一分子が4個の電子を獲得すると水になり安定します。4個未満の電子しか獲得できない不安定な状態の酸素を活性酸素と呼びます。活性酸素は早く電子を奪うために何かを酸化して水になりたいのです。この時体内の生体分子を酸化してしまう事が問題になります。通常体内の活性酸素は2%程度と言われています。もっとも活性酸素が0になってしまうと大変なことになります。体外からの菌や有害物質に対して白血球が攻撃する武器がなくなることを意味するからです。問題は活性酸素の過剰産生です。図3図3食品添加物、薬剤、アルコール、煙草、紫外線、ストレス、激しい運動等が活性酸素の過剰産生の原因とされます。人間に発症する病気の95%以上(癌も含めて)が活性酸素の過剰産生に起因するとの見解を示す専門家もいます。活性酸素に最も影響されやすいのが脂質と言われています。冷蔵庫の中の異臭も魚や肉が酸化されたための物が主とされています。この活性酸素から身を守るのが抗酸化物質です。そしてその代表選手がビタミンEです。但しビタミンE単独ではなく(図3)に示したように5つ物質による共同作業と考えていただいたほうが無難です。

 これは活性酸素の研究でも権威ある国際フリーラジカル学会の元会長レスター・パッカー博士が唱えたものです。詳細はコラムで述べますが、ビタミンEは脂質を還元した後自身が酸化されてしまい、働きを失います。これをビタミンCやCoQ10が協力して再び甦らせるのです。エネルギー産生=酸化と述べましたが人体の中でエネルギーを産生しているのはミトコンドリアである事も思い出して下さい。CoQ10はここでも抗酸化力を発揮するのです。優れた抗酸化力の秘密は此処にもあるのです。

4)加齢に伴う減少

 CoQ10の体内産生は20歳をピークに減少していきます。1.でも述べましたが個々の細胞の寿命は短く、酸化ストレスにより次第に錆付いていくのです。CoQ10が不足すればATPを満足に産生できず新しい細胞を作ることに支障を来たします。お肌も骨も各臓器も結合組織も、全てが老化していくのです。もし体内産生が減少したCoQ10を適切に補ってやれば・・・アンチエージングの鍵を握っているのかも知れません。

5)スタチンによる減少

 スタチンというのは高コレステロール血症の特効薬で国内でも百万人以上の人が内服して入ると言われています。コレステロールの体内合成はアセチール-CoAを出発物質として20数段階の反応を経て成されます。この反応は瞬時に行われますが唯一HMG-CoA(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル)からメバロン酸への還元が最も遅い反応で、この反応に関与する酵素がHMG-CoAレダクターゼです。この働きを阻害する物質がHMG-CoA阻害薬で別名スタチンと呼ばれ悪玉コレステロールを減少させる特効薬です。ところがこの反応の終盤で生成されるファネルシルピロリン酸からCoQ10は作られます。つまりメバロン酸の産生を特異的に減少させるスタチンはCoQ10の産生も減少させてしまうのです。このお薬の最大の副作用は横紋筋融解症と言う死亡にもつながる重大なものですが、CoQ10の産生を減少させる事が大きく関与している事が示唆されています。スタチン内服患者はCoQ10を補うことが重要です。

6)運動能力増進

 心臓病治療と並行して使用されてきたのがこの目的です。日本で脚光を浴び始めた頃、米国陸上ナショナルチームや豪州水泳ナショナルチームが愛用していることが取りざたされましたが、現在世界記録を持っている選手でCoQ10を摂取していない選手はいないといっても過言ではないでしょう。一国のオリンピック代表選手選考会で当落を決めたのがCoQ10だった事もうなずけます。筋肉の働きを最大限に高める為にはミトコンドリアでのATP産生を、より効率化するのがベストであるというのは誰が考えても理解できるものだと思います。またCoQ10の補給がミトコンドリアの数も増加させることにも注目したいと思います。