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LECTURE

特集講義

図1図1 運動する時のエネルギー源は糖質や脂肪であることはお話しましたが、ATP産生が鍵を握っていることも思い出して下さい。グルコースは解糖系でATPを2個得た後ミトコンドリア内に入り、あの有名なクエン酸回路(TCA回路)でさらに12個ATPを得ます。此処で得られた水素イオンが電子伝達系(別名水素イオンダム)と呼ばれる場所で実に34個のATPを得ることになります。この反応の初期の段階で補酵素Q10:以下CoQ10が必須になります。もしCoQ10が不足すれば34個のATPを放棄することになりかねないのです。(図1参照)
この際大量の酸素を消費します。ATP産生がなぜそんなに重要かというと我々人間が個体として80年寿命があるとします。ところが80年間生きている細胞は存在しません。つまり常に細胞分裂を繰り返し新しい細胞で成長し補うことによって80年を過ごすことになります。ATPの不足は細胞の新陳代謝を停滞させることになります。アンチエージングにも密接に関与しているのです。そもそもCoQ10は1978年英国のミッチェル博士が「エネルギー生産の仕組みとCoQ10の役割を明らかにする研究」でノーベル賞を受賞した由緒正しき物質です。1998年よりコエンザイムQ10国際会議も定期的に開催され、日本でも2002年当時東京大学助教授であった山本順寛氏を理事長とした日本コエンザイム協会が設立され翌年より定期的に総会が行われています。CoQ10は1974年日本において鬱血性心不全の治療薬として承認され本格的工業生産が開始されました。心不全関係の論文は多数ありますが米国のF.Rosenfeldt博士が2001年米国心臓病学会で発表した論文をご紹介します。122人の心臓バイパス患者を2つのグループに分け一方にだけ1日300mgのCoQ10を術前1週間以上摂取させて手術し比較検討しています。手術中に採取した心筋細胞内のCoQ10は17.2±1.0から43.4±3.0μg/g wet tissue と2.5倍に増加しており術後ICU滞在時間は40.8±2.4が33.6±2.4時間に短縮、入院日数も8.7±2.1に対し6.8±0.7日と著明に短縮しています。他にも心臓病患者の75%でCoQ10が不足していた事、心臓病患者に投与すれば75%で症状が改善した事などが発表されています。実際米国では重症心不全患者に1日1000mg以上投与して治療にあたり改善した報告例も多数あります。心臓病治療と並行して使用されてきたのが運動能力増進目的です。日本で脚光を浴び始めた頃、米国陸上ナショナルチームや豪州水泳ナショナルチームが愛用していることが取りざたされましたが、現在世界記録を持っている選手でCoQ10を摂取していない選手はいないといっても過言ではないでしょう。一国のオリンピック代表選手選考会で当落を決めたのがCoQ10だった事もうなずけます。筋肉の働きを最大限に高める為にはミトコンドリアでのATP産生を、より効率化するのがベストであるというのは誰が考えても理解できるものだと思います。またCoQ10の補給がミトコンドリアの数も増加させることにも注目したいと思います。これだけアメリカで脚光を浴びたのに日本では大ブレークしなかったのでしょうか?原因の一つは配合量の少ない粗悪品が多かった事と吸収率の悪さでした。CoQ10は脂溶性です。脂溶性というのは脂に溶けやすいということですが裏を返せば水には絶対に溶けないという事です。そのためCoQ10の経腸吸収率は5%程度とされています。100mg摂取しても5mgしか吸収されないのです。数年前国内CoQ10製造メーカーの一つであるN社が水溶性CoQ10を発売し吸収率を5倍にしたことで脚光を浴びました。残念ながら水溶性CoQ10は安定性に欠け摂氏40度程度の保存状態だと2週間で90%程度が分解されてしまう事が実験的に検証されています。とても安全性が高いとは思えません。吸収率の低い成分の吸収率を高める工夫は各社で行われています。これは医薬品部門でも同じですが、最近包接化が注目を集めています。これはシクロデキストリンと呼ばれる糖質で周囲を取り囲むことにより吸収率を飛躍的に向上させる画期的技術です。最近流行のナノテクノロジーを駆使しCoQ10包接体1粒子はナノ単位の大きさです。シクロ・ケム社の開発したこの技術は多くの有効成分の吸収率と安定性を向上させることに多大な貢献をしました。このナノ粒子技術は半導体・医薬品・化粧品分野へ大きな影響を与えています。包接体CoQ10の吸収率は実に18倍なのです。
 当初包接体C0Q10の吸収率向上を立証する研究は熊本大学を中心とする研究グループが行ったのですが、ビーグル犬を使用したものだったため、人体においてはその真偽を疑問視するメーカーや一部の学者もありました。2005年に発表された被検者24人によるクロスオーバー試験の結果、人体でもCoQ10原末に比してAUC(血中濃度時間曲線面積)が18倍であることが検証されました。現在ラベルに包接体、包接化或いはシクロカプセル化CoQ10ナノサプリ等の記載があれば一定量以上のCoQ10が含有されていることをシクロ・ケム社が認めていることになるので安心です。包接体CoQ10で無ければ効果を体感するのは困難です。包接体CoQ10なら30mg摂取で十分です。
運動することはエネルギーを燃焼させてATPを作ることが必須であることは既にお話しましたが、この時大量の酸素を消費し、活性酸素が過剰に産生されます。通常体内で活性酸素化される比率は2%程度と言われていますが、それが異常発生するのです。活性酸素は還元されて安定したH2O(水)になるのですが、何かを酸化して水になる必要があります。酸化された物資は錆付いた状態になり機能が著しく低下します。老化も活性酸素による酸化と考えられています。これを防ぐ役割を成すのが抗酸化物質です。世間ではアンチ・エージングの為の抗酸化物質摂取のような風潮がありますがアスリートにこそ必須なのです。国際フリーラジカル学会(抗酸化について大変権威ある学会)の会長であったレスター・パッカー博士は抗酸化ネットワークとしてビタミンC・ビタミンE・CoQ10・αリポ酸・グルタチオン*を挙げています。

抗酸化物質として多くのものが推奨されていますが、活性酸素の父と呼ばれる彼が認めた由緒正しき5種こそ真の抗酸化物質と呼ぶにふさわしいのです。この中では唯一グルタチオンだけが医薬品扱いの為配合を表示できませんが、ある種の酵母の中に含まれていることから5つの成分を全て含有したサプリメントも販売されています。
 グルタチオンは細胞内の主要抗酸化成分でグルタミン酸-システイン-グリシンで形成されるトリペプチド。細胞内のチオール環境を維持するのに必須。細胞内における主要システイン源。また単独のシステインは細胞内でシスチンになり活性酸素産生の手助けをしてしまうためグルタチオンでの摂取が有利。グルタチオンにより整えられたチオール環境の改善は皮膚においても活性酸素除去による美白効果や黒色メラニン生成酵素チロシナーゼ阻害や肌色メラニン生成促進作用も有している。グルタチオン産生促進作用が確認されたオリーブ含有ポリフェノール新素材ヒドロキシチロソールが注目を集めている。
また、エルゴチオネインは体内でビタミンEの7000倍の抗酸化作用を有する事が発表されて、一躍脚光を浴びている。

 巷ではビタミンEの数百倍の抗酸化力との過大宣伝製品がありますが、試験管の中ではどうであれ人体の中ではビタミンEが最強と考えても良いでしょう。ただビタミンEは単独では一回の仕事で酸化型になってしまいその機能を終えてしまいます。ビタミンCやCoQ10が復活させることにより再度活躍の場を持つことになります。
最近話題のαリポ酸は単独でも素晴らしい抗酸化物質ですがCoQ10をはじめ他の4種類の抗酸化物質を還元する力があります。つまりスーパー・レスキューの役割を担っているのです。残念ながらCoQ10同様20歳をピークに体内産生は減少して行きます。ちなみに推奨1日摂取量は100mgとされ比較的多く含まれる食品であるほうれん草やレバーでも600kg摂取する必要があります。サプリメントとして摂取した方が無難です。活性酸素の除去はあくまで五つの成分の共同作業です。従って5種類の抗酸化物質がバランス良く配合されたものがより効率的である事がお分かり頂けると思います。また眼のような特殊な器官では上述の抗酸化物質よりもルテイン・ゼアキサンチン等の成分の方がより有効な場合もあります。また包接化されていないCoQ10とビタミンEを配合すると作用が失脚してしまうデータがありますのでご注意下さい。包接体CoQ10はこの点においても優れておりビタミンEでもCでもαリポ酸でもOKです。何度も言うようですがATPを効率よく産生し、抗酸化対策が十分でも筋肉や関節、骨が脆弱ではますます故障の原因になってしまいます。各組織の十分な水分保持の為のための正しい水分摂取法グリセリン・ローディングを忘れてはいけません。